5月6日、菅直人首相は、中部電力浜岡原発の運転を停止するよう要請しました。
この件に関し、"原発か、安全か、エネルギーをどうするのか"といった問題提起をしているマスコミもあるようですが、少なくとも、今回の停止要請が、適切な基準や手続きにもとづいたものかどうかを検証可能な詳しい説明が必要であり、マスコミは、これを求めていくことが重要ではないでしょうか。
[事実関係]
4月30日、原子力安全・保安院の西山英彦審議官は、福島原子力発電所事故対策統合本部の共同記者会見で、東海地震の想定震源域内にある浜岡原子力発電所3号機の再稼働について、地元の自治体の意向を尊重する姿勢を表明。
5月5日、海江田万里経済産業相は、静岡県御前崎市の中部電力浜岡原発を視察し、福島第一原発事故を踏まえた緊急安全対策の実施状況を確認。
同日、川勝平太知事ら地元自治体の首長と会談。
5月6日、菅直人首相は、中部電力浜岡原発の運転を停止するよう要請。
5月7日、報道によれば、経済産業省の原子力安全・保安院は、電力各社が電源喪失に備えて実施した緊急の対策について、いずれの原発でも「適切に実施されている」と判断し、運転の停止を求めないと表明。
5月7日、テレビ番組の中で、細野豪志首相補佐官は、自らが福島第一原発事故を踏まえた浜岡原発の対策が十分でないとの心証を得たので、停止要請に至った旨をコメント。
[管首相の会見における停止要請の理由説明(骨子))]
・(文部科学省の想定を引用)30年以内にマグニチュード8.0程度の東海地震が発生する可能性は87%と極めて高い。
・国民の安全、安心を考えた結果の判断だと表明。
・現行規制では、運転停止の指示や命令がはっきり規定されていないため、中部電力への要請という形にした。
[不自然と見える点]
・今回の運転停止要請が、現行規制では、運転停止の指示や命令がはっきり規定されていないからという点は理解できます。
・しかし、なぜ要請に至ったのか、その理由らしきものは、①「30年以内にマグニチュード8.0程度の東海地震が発生する可能性は87%と極めて高い」、②「国民の安全、安心を考えた結果の判断」と表明していますが、これでは説明になっていません。
理由があるとすれば、①を前提として②に至った過程、
すなわち、
どういった基準をもって、
どのような手続きで検討し、
誰が最終判断を行ったのか、
が示されることが最低限必要と考えます。
管首相は、「あなた(国民)の為にやりました」と言っているようですが、一般に日常生活において、こうした言い回しをする人はろくなもんではないことが多い気がします。管首相が幅広い理解を得るためには、より詳しい説明が必要なことは明らかではないでしょうか。
[疑問な点]
海江田経済産業相は、中部電力管内で計画停電に至らないと考えている旨を表明しました。
しかし、仮に浜岡原発が停止したら、中部電力の供給は極めてタイト(※)になり、この結果、日本の主要都市圏である、名古屋を中心とした中京地域の経済活動は大きく制約を受けることになります。
こういったリスクについて管首相、海江田大臣も説明をしていません。
※
中部電力の供給力は最大約3000万キロワット、
同ピーク時の最大電力量を約2560万キロワットと想定、
差し引いた予備電力は約440万キロワット。
浜岡原発の供給電力量は、定期検査中の3号機と4、5号機の合計で約360万キロワット
浜岡原発を全面停止した場合の予備電力量は約80万キロワット、予備電力率は3%程度に低下。
福島原発の問題の結果、首都圏の経済活動が大きく制約を受けている中、日本の経済活動は大きく抑制されることになり、3大都市圏の内、首都圏と中京圏という2大都市圏の消費や企業の設備投資は抑制され、目先だけでなく、その影響は中期的な日本の経済活動に大きな影響を与えることになる懸念があります。
[仮定]
仮に、このまま詳細な説明がされない場合、明確な基準なく、適正な手続きで判断されたことではなく、菅首相は、東日本大震災の対応の不備で失墜した政権の信頼回復につなげるという、極めて政治的な狙いから出たものであったと推定すると辻褄が合います。
マスコミの中には、原発か経済か国民的な議論をしようと主張するマスコミもありますが、現時点でこのような主張をするマスコミは時機を誤っているように思います。